筋生検の基本|適応・生検部位の選び方・検体処理をわかりやすく解説

筋疾患

筋疾患の診断において、筋生検は重要な検査のひとつです。

一方で、

「どの患者さんに筋生検をするのか?」
「どの筋を採ればいいのか?」
「採取した筋をどう扱えばいいのか?」

など、実際に筋生検を行うとなると迷うポイントも多くあります。

この記事では、筋生検の適応、生検する時期、部位の選び方、採取時の注意点、検体の凍結まで、実践的なポイントを順番にまとめます。


筋生検の適応

筋生検は、主に筋疾患が疑われ、筋病理所見が診断に有用な場合に検討します。

一方、筋力低下があるからといって、すべての患者さんに筋生検を行うわけではありません。

たとえば、神経原性疾患や神経筋接合部疾患は筋生検の基本的な対象ではありません。

また、遺伝学的検査によって診断可能な筋疾患では、筋生検を行わず診断できる場合があります。

(例)

・顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー

・筋強直性ジストロフィー

・Duchenne型筋ジストロフィー

・福山型先天性筋ジストロフィー など

そのため、

「筋疾患を疑う → とりあえず筋生検」

ではなく、臨床像や血液検査、電気生理検査、骨格筋画像、遺伝学的検査などを踏まえて、筋病理で何を確認したいのかを考えることが重要です。


筋生検はいつ行う?

筋生検を行う時期について重要なのは、病変が進みすぎる前に検討することです。

筋障害が高度になると、筋組織が脂肪や線維組織に置き換わってしまいます。こうなると、評価すべき筋線維そのものが少なくなり、病理学的な評価が難しくなります。

いわば「焼け野原」になった筋を生検しても、得られる情報が少なくなってしまうということです。

また、筋疾患のなかには治療可能な疾患もあります。

一見すると筋ジストロフィーのように見えても、別の治療可能な筋疾患である可能性もあるため、筋生検が診断に必要と判断した場合には、できるだけ早い段階で検討します。


どの筋を生検する?

筋生検では、**「どの筋を採るか」**が非常に重要です。

基本的には、

軽度〜中等度に障害されている筋を選択します。

その判断に役立つのが、MRIなどの骨格筋画像です。

生検に適しているのは、

・高度の浮腫性変化:STIRで高信号

ごく軽度の脂肪浸潤 :T1WIでわずかに高信号

を認める筋です。

症例1:筋炎を疑う場合

STIRでは筋の浮腫性変化を評価できます。

では、①〜③のどこを生検するのがよいでしょうか?

この症例では、最も浮腫変化が高度な②を生検部位として選択します。

症例2:筋ジストロフィーを疑う場合

T1強調画像では、筋の脂肪置換を評価できます。

実際の画像ではありませんので、極端なイメージ図ですが、

①のように高度に脂肪置換された筋では、正常な筋線維がほとんど残っておらず、十分な病理学的評価ができない可能性があります。

<①のイメージ図>

一方で、③のようにほぼ正常な筋を採取しても、病理学的変化を十分に捉えられない可能性があります。

<③のイメージ図>

そのため、②のように適度に障害された筋を選択します。

<②のイメージ図>

炎症性疾患では、STIRで浮腫性変化が強い筋、慢性疾患ではT1WIで軽度な変化がある筋を選びましょう。


生検する筋を選ぶときのその他のポイント

画像所見だけで生検部位を決定するわけではありません。

実際には、

  • 病変の程度
  • アプローチのしやすさ
  • 病理学的評価に適した筋か

などを総合して決定します。

病理学的評価という点では、各筋線維タイプがモザイク状に分布する筋が適しており、上腕二頭筋や大腿四頭筋などが推奨されています。

一方、腓腹筋は抗重力筋でさまざまな変化をきたしうること、また、慢性経過例では神経原性変化と筋原性変化の鑑別が難しくなることがあり、可能であれば避けます。


実際の筋生検手技、および注意点

生検する筋が決まったら、実際に筋組織を採取します。

実際の筋生検手技や検体の固定方法については、**国立精神・神経医療研究センター(NCNP)が公開している「筋生検・検体固定・検体送付の手技解説ビデオ」**が非常に参考になります。

開放筋生検の具体的な手技だけでなく、生検筋の凍結固定や凍結検体の送付方法についても動画で解説されています。筋生検を実際に行う際には、こちらの動画で具体的な手技を確認することをおすすめします。

NCNP「筋生検・検体固定・検体送付の手技解説ビデオ」

個人的に気をつけているポイント

<局所麻酔>

局所麻酔薬は皮下までとし、筋肉内への浸潤は避けます。筋内に局所麻酔薬を注入すると、筋壊死を生じて病理所見に影響する可能性があります。

また、

  • 検体を糸で縛らない
  • 電気メスを使用しない

ことにも注意します。

<採取する筋の大きさと固定>

筋生検では、病理学的評価に十分な大きさの検体を採取する必要があります。

検体の径について**5 mm〜1 cm程度(鉛筆の太さ程度)**が目安と言われています。

筋はトラガカントガムに立てますが、トラガカントガムに埋もれてしまわないようにすることが重要です。連続切片の作成の際に混入しないように気をつけます。

採取した筋は、筋線維の方向が分かるように扱うことも重要です。

<検体採取後>

採取後の取り扱いによっても病理標本の質が左右されます。

採取した検体は、固く絞った湿潤ガーゼに包みます。

ここで注意したいのが、ガーゼを濡らしすぎないことです。ガーゼが過度に湿っていると筋が水分を吸ってしまいます。

また、凍結した検体は再び融解させないことも重要です。

<凍結>

筋病理では、採取した筋組織を適切に凍結する必要があります。

当施設では、液体窒素とイソペンタンを使用しています。

(アセトン・ドライアイス混合液を使用されている施設もあるかと思います。)

方法としては、イソペンタンを入れたビーカーを液体窒素内に入れて冷却します。

「それなら、最初から筋肉を液体窒素に直接入れればいいのでは?」

と思うかもしれません。

しかし、液体窒素は沸点が低く、試料を入れると周囲ですぐに気化します。

この気体が試料周囲に形成されることで熱が伝わりにくくなり、凍結が遅れる原因になります。

一方、イソペンタンは、沸点が比較的高いため気泡がほとんど生じません。そのため、十分に冷却したイソペンタン内で凍結する方法をとります。

つまり、

液体窒素でイソペンタンを冷却 → 冷却したイソペンタンで筋組織を急速凍結

という流れになります。


まとめ

筋生検では、単に筋組織を採取するだけではなく、適応・時期・生検部位・採取方法・検体処理のすべてが重要です。

骨格筋MRIなどを参考に、病理学的変化を捉えられる筋を選択します。

また、適切な部位から採取できても、局所麻酔、電気メス、乾燥や過度な湿潤、凍結・融解などによるアーチファクトが加われば、病理学的評価に影響する可能性があります。

筋生検は、

「どこを採るか」から「どう凍結するか」までが重要です。

参考資料

  1. 埜中征哉,西野一三.臨床のための筋病理 第5版.日本医事新報社,2021.
  2. 第75回 筋病理セミナー.国立精神・神経医療研究センター,2026年7月21–23日.

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