筋生検では、1枚の標本だけを見て診断するわけではありません。
HE染色、Gomoriトリクローム変法(mGT)、NADH-TR染色、myosin ATPase染色など、複数の染色を組み合わせて筋線維の形態や内部構造、筋線維タイプを評価します。
この記事では、筋病理を初めて見るときに「それぞれの染色で何を見るのか?」を整理します。
まず覚えたい4つの染色
最初に、それぞれの役割をざっくり整理します。
| 染色 | 主に見るもの |
| HE染色 | 全体の構築、筋線維の大小不同、核、壊死・再生線維など |
| mGT染色 | 結合組織、ミトコンドリア異常、その他(ネマリン小体、縁取り空胞)など |
| NADH-TR染色 | 筋小胞体:筋原線維間網の可視化 |
| myosin ATPase染色 | 筋線維タイプと分布、割合、萎縮、タイプ2C線維 |
つまり、
HEで全体を見る → mGT・NADH-TR・ATPaseで詳しく見る
というイメージを持つと理解しやすくなります。
1.HE染色:まず全体像を見る
HE(hematoxylin-eosin)染色は、筋病理の基本となる染色です。
最初から細かな所見を探すのではなく、まず標本全体を眺めます。

① 筋全体の構築
最初に確認したいのが、
- endomysium
- perimysium
- 脂肪組織の増加
- 炎症細胞浸潤
などです。
「正常な筋組織の構築がどの程度保たれているか?」という視点で観察します。
② 筋線維径
次に筋線維の大きさを見ます。
筋原性変化では、大小不同が広範かつ不規則にみられます。
一方、神経原性変化では、
- group atrophy
- 多数の小角化線維
などが重要になります。
③ 核
筋線維内の核の増加や内在核・中心核の増加にも注目します。これらは筋ジストロフィーや筋強直性ジストロフィーなどでみられます。
④ 壊死と再生
壊死から再生に至る過程には一定の時間経過があり、壊死線維・再生線維の時相を意識して観察することが診断の手がかりになります。詳細は別項で解説します。
2.Gomoriトリクローム変法(mGT)
mGT染色は、HEだけでは分かりにくい筋線維内部の異常を見つけるのに役立ちます。
代表的には、
- 筋線維:青緑色
- 結合組織:緑色
- ミトコンドリア:赤色
として観察されます。
特に覚えておきたい所見が、
- nemaline body
- rimmed vacuole
- ragged-red fiber(RRF):ミトコンドリアの異常集積
です。
たとえばミトコンドリアミオパチーではragged-red fiber、封入体筋炎ではrimmed vacuole、ネマリンミオパチーではnemaline bodyが診断の手がかりになります。

3.NADH-TR染色:筋線維の「内部構造」を見る
NADH-tetrazolium reductase(NADH-TR)染色では、筋小胞体やミトコンドリアなどに関連した酵素活性を利用して、筋線維内部の構築を観察します。
正常では筋線維内に網目状の筋原線維間網がみられます。
この網目が、
- 抜けている
- 乱れている
- 特定の領域で染色性が低下している
といった変化がないかを確認します。
代表的なのがcentral core diseaseです。
core部分ではミトコンドリアや筋小胞体が乏しくなるため、NADH-TR染色で染色性の低下した領域として観察されます。

4.myosin ATPase染色:筋線維タイプを見る
myosin ATPase染色は、筋線維タイプとその分布を評価するための染色です。
正常な骨格筋では、type 1線維とtype 2線維が特定の場所に偏ることなく、モザイク状に分布しています。
ATPase染色を見るときには、
- 筋線維タイプがモザイク状に分布しているか
- 同じタイプの筋線維がまとまっていないか
- 特定の筋線維タイプが優位(割合が多い)になっていないか
- 特定の筋線維タイプだけが萎縮していないか
- type 2C線維が増加していないか
といった点を評価します。
① fiber type grouping:神経再支配を考える
正常筋では、異なる筋線維タイプがモザイク状に分布しています。
ところが、神経原性疾患などによって筋線維が脱神経され、その後に残存する神経による再支配が起こると、再支配された筋線維はその運動単位に対応した筋線維タイプへ変化します。
その結果、同じ筋線維タイプがまとまって分布する
fiber type grouping
が形成されます。
したがって、fiber type groupingを認めた場合には、脱神経後の神経再支配を反映した神経原性変化を考えます。
HE染色でみられるgroup atrophyとあわせて、神経原性変化を評価するうえで重要な所見です。
② fiber type predominance:特定の筋線維タイプが多い
特定の筋線維タイプが通常より多く分布している状態をfiber type predominanceと呼びます。
代表的なのが、
type 1 fiber predominance
です。
type 1 fiber predominanceは先天性ミオパチーなどでみられることがあります。
ただし、この所見だけで特定の疾患を診断できるわけではありません。
筋強直性ジストロフィーや筋ジストロフィー、代謝性ミオパチーなど、さまざまな筋疾患でも筋線維タイプの分布異常がみられることがあります。
そのため、
「type 1線維が多い=○○病」
と考えるのではなく、筋線維径や筋線維内部の構築、臨床像などと組み合わせて評価することが重要です。
③ fiber type atrophy:どのタイプの筋線維が萎縮しているか
ATPase染色では、特定の筋線維タイプだけが選択的に萎縮していないかも確認します。
type 1 fiber atrophy
type 1線維が選択的に小径となる所見です。
先天性ミオパチーでは、type 1線維がtype 2線維よりも小径となることがあり、筋線維タイプの評価が診断の手がかりになります。
また、筋強直性ジストロフィーなどでもtype 1線維の選択的萎縮がみられることがあります。
重要なのは、type 1 predominanceとtype 1 atrophyは別の概念だということです。
- predominance:type 1線維の「数・割合」が多い
- atrophy:type 1線維の「径」が小さい
この2つを分けて考えると理解しやすくなります。
type 2 fiber atrophy
type 2線維が選択的に萎縮する所見です。
type 2 fiber atrophyは比較的非特異的な変化で、
- 廃用
- 低栄養
- ステロイド投与
- 加齢
など、さまざまな状況でみられます。
したがって、type 2 fiber atrophyを認めても、それだけで特定の筋疾患を診断することはできません。
④ type 2C fiber:再生・分化・再支配の途中を見る
ATPase染色でもう一つ覚えておきたいのが、type 2C線維です。
type 2C線維は、成熟したtype 1・type 2線維とは異なる染色性を示す、未分化・移行期の性質をもつ筋線維です。
type 2C線維は、
- 発育・分化途中の筋線維
- 壊死後の再生筋線維
- 脱神経後の神経再支配に伴うfiber type transformation
などでみられます。
つまり、type 2C線維が増えていたら、
「筋線維の再生やfiber typeの変換が起きているのではないか?」
という視点で考えます。
ただし、type 2C線維の増加も特定の疾患に特異的な所見ではありません。
HE染色で再生線維が増えていないか、fiber type groupingを伴っていないかなど、ほかの病理所見と合わせて解釈することが重要です。
fiber type grouping → 神経再支配
type 1 fiber atrophy → 先天性ミオパチーなどでみられる
type 2 fiber atrophy → 非特異的変化が多い
type 2C fiber → 再生・分化・再支配を考える
という対応をまず押さえておくと、ATPase染色がぐっと読みやすくなります。

まとめ:染色ごとに「何を見るか」を決める
筋組織化学染色は、すべての染色から同じ情報を得るものではありません。
「この染色では何を見るのか」をあらかじめ決めて観察すると、筋病理がかなり整理しやすくなります。
筋病理では1つの所見だけで診断を決めるのではなく、これらの染色所見を臨床像、筋MRI、自己抗体、遺伝学的検査などと組み合わせて総合的に評価することが重要です。



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