急速進行性認知症(RPD)とは?鑑別疾患と診断アプローチをわかりやすく解説

認知症

認知機能低下をみたときには、Alzheimer病などの神経変性疾患をまず思い浮かべるかもしれません。

しかし、数週〜数か月という短期間で認知機能低下が進行する場合には、急速進行性認知症(rapidly progressive dementia:RPD)として、通常の認知症とは少し異なるアプローチが必要です。

RPDの代表的な疾患としてCreutzfeldt-Jakob病(CJD)が知られていますが、

「RPD=CJD」ではありません。

感染症や自己免疫性脳炎など、治療可能な疾患が含まれているためです。

RPDをみたときには、

「CJDらしいか?」と同時に「治療可能なRPDを見逃していないか?」

という2つの視点で診断を進めることが重要です。

RPDの原因は?

RPDの原因は非常に多岐にわたります。

大きく、

  • 感染症
  • 自己免疫性
  • 悪性腫瘍・傍腫瘍性
  • 血管性
  • 中毒・代謝性
  • プリオン病・その他の神経変性疾患

などに分けて考えると整理しやすくなります。

【図1:急速進行性認知症(RPD)の診断アプローチ】

ここで大切なのは、最初から一つの疾患に絞り込まないことです。

血液検査、髄液検査、頭部MRI、EEGなどを組み合わせながら、複数の原因を並行して検索していきます。

RPDをみたらまず何を調べる?

基本となるのは、

血液検査 + 髄液検査 + 頭部MRI + EEG

です。

血液検査

一般的な血算・生化学検査に加えて、

  • 電解質
  • 肝・腎機能
  • 炎症反応
  • 甲状腺機能
  • ビタミンB12
  • 感染症
  • 自己抗体

などを臨床像に応じて評価します。

特にRPDでは、代謝性・感染性・自己免疫性などの治療可能な原因を拾い上げることが重要です。

髄液検査

基本的には、

細胞数・分画、蛋白、糖、IgG index、oligoclonal band

などを確認します。

そこから疑う疾患に応じて、感染症関連検査や自己抗体などを追加します。

プリオン病を疑う場合には、後述するRT-QuIC、14-3-3蛋白、総tau蛋白なども重要になります。

頭部MRI

RPDではMRI、特にDWIとFLAIRが重要です。

CJDだけでなく、脳炎、血管障害などの鑑別にもつながるため、臨床像と合わせて評価します。

EEG

EEGもRPDでは重要です。

CJDでみられる特徴的な脳波所見だけでなく、てんかん性活動が認知機能・意識状態の悪化に関与していないかを評価する意味もあります。

RPDで見逃したくない自己免疫性脳炎

RPDの鑑別で特に重要なのが自己免疫性脳炎です。

自己免疫性脳炎では、さまざまな神経細胞の抗原を標的とする自己抗体が知られています。

抗原の局在からみると、

神経細胞表面・シナプス抗原
細胞内抗原

に大きく分けて考えることができます。

代表的な細胞表面・シナプス関連抗原にはNMDAR、AMPAR、LGI1、CASPR2、GABA受容体などがあり、DPPXやIgLON5などの神経細胞表面抗原も知られています。

【図2:自己免疫性脳炎の抗体―細胞表面・シナプス抗原 vs 細胞内抗原】

この分類は単なる抗体の分類ではありません。

病態・腫瘍との関連・治療反応性を理解するうえで重要です。

細胞表面・シナプス抗原を標的とする抗体

細胞表面に存在する受容体やイオンチャネルなどを標的とする抗体では、抗体そのものが病態に直接関与することがあります。

抗体が受容体などに結合することでシグナル伝達を阻害したり、受容体を内在化させたりすることによって神経機能障害を起こすと考えられています。

代表的なものとして、

抗NMDAR抗体、抗AMPAR抗体、抗LGI1抗体、抗CASPR2抗体、抗GABA受容体抗体

などがあります。

このタイプでは抗体除去や抗体産生を抑制する免疫治療が有効となり得るため、早期に診断することが非常に重要です。

細胞内抗原を標的とする抗体

一方、

Hu、Ma2、CRMP5(CV2)

などでは細胞内抗原が標的になります。

細胞内抗原は通常、抗体が直接アクセスできないため、抗体そのものが神経細胞を傷害するというより、抗原特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)による神経細胞障害が重要と考えられています。

そのため、細胞表面抗原を標的とする疾患と比較すると、抗体を除去するだけでは改善しにくいことがあります。

また、細胞内抗原に対する抗体の多くは悪性腫瘍との関連が強い点も重要です。

自己免疫性脳炎をみたら「腫瘍」も考える

ここで出てくるのが**傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurological syndrome:PNS)**です。

PNSでは、悪性腫瘍に対する免疫応答が、共通する抗原をもつ神経組織に向かうことで神経障害が生じると考えられています。

つまり、

自己抗体が陽性

自己免疫性脳炎と診断

終了

ではありません。

抗体によっては、

「背景に悪性腫瘍が隠れていないか?」

まで考える必要があります。

実際、PNSでは神経症状が出現した時点で腫瘍が検出できないこともあり、その場合にも定期的な腫瘍スクリーニングが推奨されています。

もちもちポイント

自己抗体は「診断のマーカー」だけではありません。

抗体の種類から、

病態はどうか?
腫瘍との関連は?
免疫療法が効きそうか?

まで考えることが重要です。

RPDの代表的疾患:Creutzfeldt-Jakob病(CJD)

RPDの代表的な原因の一つがプリオン病です。

ヒトのプリオン病では、孤発性Creutzfeldt-Jakob病(sporadic CJD:sCJD)が最も多いとされています。

進行性認知機能低下に、

ミオクローヌス、小脳症状、錐体路・錐体外路徴候、視覚症状

などが組み合わさります。

CJDを疑ったときに重要なのが、

頭部MRI(DWI)
② EEG
③ 髄液検査

の3つです。

【図3:CJDを疑ったときの3つの検査】

頭部MRI(DWI)

CJDではDWIが非常に重要です。

大脳皮質に沿った高信号や基底核などの高信号

が診断の手掛かりになります。

たとえば遺伝性CJDのE200K変異では、sCJDと同様に大脳皮質、基底核、視床にDWI高信号を呈することが報告されています。

大脳皮質に沿うDWI高信号は、いわゆるcortical ribboningとして知られています。

ただし、MRI所見だけでCJDと決めるのではなく、臨床経過やEEG、髄液検査などと合わせて判断します。

② EEG

CJDでは**周期性同期性放電(periodic synchronous discharge:PSD)**が診断の手掛かりになります。

ただし、

「PSDがない=CJDではない」

とは限りません。

プリオン病の病型によって脳波所見は異なります。

髄液検査

プリオン病を疑う場合には、

RT-QuIC
14-3-3
蛋白
総tau蛋白

などが診断に用いられます。

RT-QuICは異常プリオン蛋白の増幅を利用する検査で、CJD診断において特に重要です。一方、14-3-3蛋白や総tau蛋白は急速な神経細胞障害を反映するため、CJDに特異的な検査ではありません。

したがって、

MRI・EEG・髄液のどれか1つだけを見るのではなく、臨床経過も含めて総合的に評価する

ことが大切です。

ここからは少し発展:日本で知っておきたい遺伝性プリオン病

ここは少し発展的な内容です。

プリオン病には孤発性だけでなく、PRNP遺伝子変異による遺伝性プリオン病があります。

遺伝性プリオン病には、

遺伝性CJD(gCJD)
Gerstmann-Sträussler-Scheinker病(GSS)
致死性家族性不眠症(FFI)
PrP cerebral amyloid angiopathy(PrP-CAA)

などがあります。

そして重要なのが、

遺伝性プリオン病=必ず急速進行するわけではない

という点です。

病型によっては緩徐に進行することもあります。

日本で重要なV180I変異

日本の遺伝性プリオン病を考えるうえで重要なのがV180I変異です。

提示資料の日本のサーベイランスデータでは、V180Iが遺伝性プリオン病の**55.2%(640例)**を占めています。

V180Iでは典型的sCJDと比較して、

ミオクローヌスや小脳症状が少なく、PSDもみられにくい

という特徴があります。

一方、頭部MRI DWIでは大脳皮質に沿った強い高信号を認め、ADCは低下することが一般的です。

さらに、総tau蛋白や14-3-3蛋白が高値を示す例が多い一方、RT-QuIC陽性を示すことは少ないとされています。

もちもちポイント

「MRIはCJDらしいのに、PSDやRT-QuICが典型的ではない」

そんな場合にも、プリオン病をすぐに否定しないことが重要です。

九州で知っておきたいGSS P102L

もう一つ知っておきたいのが、Gerstmann-Sträussler-Scheinker病(GSS)のP102L変異です。

P102Lでは、

進行性の高次脳機能障害、小脳失調、錐体外路徴候

など、多彩な神経症候を呈します。

そして日本では、鹿児島および福岡・佐賀の有明海沿岸への偏在が報告されています。

また、頭部MRI DWIは初期には異常を認めないことがあり、進行すると大脳皮質高信号を認めることがありますが、目立たない症例もあります。

典型的なsCJDとはかなり異なる経過をとり得るため、知っておきたいプリオン病の一つです。

まとめ:RPDをみたら「治療可能か?」を常に考える

急速進行性認知症をみたときには、CJDだけに目を向けるのではなく、

感染症
自己免疫性脳炎
傍腫瘍性
血管性
中毒・代謝性

などを幅広く検索します。

そのうえで、

血液検査 + 髄液検査 + MRI + EEG

を組み合わせながら診断を進めます。

特に覚えておきたいのは、

RPD=CJDではない。
CJDを疑いながら、治療可能なRPDを並行して探す。

ということです。

自己免疫性脳炎は治療可能なRPDの重要な原因ですし、自己抗体によっては背景に悪性腫瘍が潜んでいる可能性もあります。

一方、プリオン病にも典型的なsCJDだけでなく、V180IやGSS P102Lなどさまざまな病型があります。

「典型的ではないから除外する」のではなく、臨床経過・MRI・EEG・髄液検査を組み合わせて考えることがRPD診療では重要です。

参考文献

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  6. 髙尾昌樹.プリオン病.BRAIN and NERVE.2025;77(5):439-447.
  7. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班」,「プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究班」.プリオン病診療ガイドライン2023.2023.

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