神経難病の移行医療(トランジション)とは?小児から成人への移行を解説

難病・在宅医療

トランジションで引き継ぐべき医療 生活 意思決定

この記事の要点 移行医療は、紹介状を渡して診療科を変えるだけの手続きではありません。身体的な自立が難しくても、本人の自律、つまり意思決定を支えることはできます。診断名だけでなく、日常のケア方法、意思伝達、地域サービス、急変時の対応まで引き継ぎます。小児慢性特定疾病から指定難病へは自動的に切り替わらないため、成人前から準備が必要です。

移行医療とは

医療の進歩により、小児期に発症した慢性疾患をもちながら成人期を迎える患者さんが増えています。そこで課題になるのが、小児期医療から成人期医療への移行、いわゆるトランジションです。

移行医療は、小児科から成人診療科へ患者さんを紹介する一回のイベントではありません。成長に合わせて、本人が診療に参加できるように支援し、成人期に必要な医療、福祉、生活支援へ段階的につなぐプロセスです。

移行医療の目的は、大きく二つあります。

  • 本人が自分の疾患や治療を理解し、自分の意向を診療に反映できるようにすること
  • 原疾患の診療を継続しながら、成人期の合併症、救急、入院、手術にも対応できる体制を作ること

自律と自立は分けて考える

神経難病の移行医療では、「自律」と「自立」を混同しないことが重要です。

 意味
自律自分で考え、選び、意思決定する支援者と受診し、説明を受けて本人が治療法を選ぶ
自立他者の支援なしに生活や健康管理を行う服薬や受診手続きを一人で管理する

神経筋疾患では、呼吸管理や移動に介助が必要で、身体的な自立が難しいことがあります。しかし、意思伝達装置、視線、Yes・Noサインなどを使えば、本人が診療や生活の選択に参加できます。目標は「何でも一人でできること」ではなく、必要な支援を受けながら本人の意思を中心に置くことです。

移行を難しくする理由

移行が進みにくい理由は、患者さんや家族だけにあるわけではありません。小児科と成人診療科の双方に課題があります。

患者さんと家族

  • 長年診てもらった小児科との関係が途切れる不安
  • 成人病棟でも同じ医療的ケアや意思疎通ができるのかという不安

小児科側

  • 移行準備を始める時期が遅れやすい
  • 成人側の受け入れ先や相談窓口が見つかりにくい

成人診療科側

  • 希少疾患、小児期からの医療的ケア、発達特性への経験が少ない
  • 成人医療は診療科が分かれており、多臓器の問題を一つの科で把握しにくい

このため、成人科の初診時にすべてを伝えるのではなく、早い段階から多職種で情報を整理し、必要に応じて併診期間を設けます。

引き継ぐのは医学情報だけではない

成人側へ渡す情報は、紹介状に記載する診断名や薬剤だけでは不十分です。少なくとも以下を整理します。

領域確認する内容
診療診断根拠、遺伝学的情報、治療歴、有害事象、呼吸・嚥下・栄養、救急時対応
生活と支援ADL、意思伝達方法、学校・就労、家族体制、訪問看護、福祉サービス、医療費助成
本人と家族疾患の理解度、本人が大切にしていること、将来の希望、移行への不安

呼吸器設定、吸引、排痰補助、体位、褥瘡予防など、患者さんごとに方法が異なるケアは、文章だけでなく写真や動画、チェックリストを用いると伝わりやすくなります。

小児慢性特定疾病と指定難病の切れ目

制度の移行は、診療科の移行とは別に準備します。小児慢性特定疾病の医療費助成は原則18歳未満が対象で、18歳時点ですでに認定され、継続治療が必要な場合は20歳未満まで延長できます。

一方、指定難病には年齢制限がありません。ただし、小児慢性の受給者証を持っていても指定難病へ自動的には切り替わりません。対象疾病、診断基準、重症度基準、または軽症高額の条件を確認し、指定難病として改めて申請します。

指定難病の基準を満たす小児では、小児期から指定難病を申請することも可能です。それでも小児慢性には、成人移行、就学、家族支援など小児期特有の自立支援につながる意味があります。両方に申請する実益は、自己負担額や自治体の支援内容によって異なります。

実務のポイント
・小児慢性の有効期限と指定難病の対象を確認する
・難病指定医と臨床調査個人票の作成時期を決める
・身体障害者手帳、障害年金、福祉サービスは別制度として確認する

SMA症例から学んだこと

当院では、小児期から人工呼吸器と胃瘻を使用しているSMAの若年成人について、年1回の検査入院を小児病棟から成人病棟へ移す機会がありました。症例情報は一部を一般化しています。

入院前には、看護師による面談、普段の体位を示す写真、看護サマリーなどを用いて、個別のケアを成人病棟へ共有しました。その結果、成人側のスタッフが本人の普段の状態や地域生活を具体的に理解でき、今後の診療関係を作るきっかけになりました。

一方で、実際に入院して初めて分かった課題もありました。

  • 小児科で定着していたルーティン(検査の順序など)を十分共有できておらず、不安が生じた
  • 採血が難しかった → 小児科医に手技をご指導いただいた
  • 検査異常があった際に小児科と成人専門科のどちらへ相談するか迷った

この経験から、疾患情報だけでなく、「ルーティン」「小児科からの検査手技の伝達」「臓器障害が起きた際の窓口」などについても検討しておく必要があると分かりました。

移行前チェックリスト

移行前には、診断名だけでなく、本人の生活、家族の理解、成人側の受入体制、福祉サービスまで一つのチェックリストで確認します。カンファレンスで共有すると、職種ごとの情報をまとめやすくなります。

図 成人移行前に確認する4つの領域

1 本人の状態

  • □ 基本情報:氏名、生年月日、年齢
  • □ 病名と診断根拠
  • □ 認知・発達レベル、ADL、精神状態
  • □ 食事、排泄、清潔、睡眠の普段の状態
  • □ 医療機器の使用、管理方法、災害時の対応
  •  □ 気管切開 □ 人工呼吸器 □ 胃瘻 □ 尿道カテーテル □ その他
  • □ 在宅医療の利用状況
  •  □ 往診・訪問診療 □ 訪問看護 □ かかりつけ薬局

2 家族と受入体制

  • □ 家族が疾患をどのように理解しているか
  • □ 主な意思決定支援者:母、父、兄弟姉妹、その他
  • □ 緊急時に受け入れる医療機関が決まっているか
  • □ 成人診療科への移行を、いつ頃、誰が説明したか
  • □ 本人と家族が移行に納得しているか、希望や心配があるか
  • □ 小児科側の医療ソーシャルワーカーが関与しているか
  • □ 成人診療科側の医療ソーシャルワーカーが関与しているか
  • □ 短期入所・ショートステイを利用しているか

3 診療経過と移行予定

  • □ 小児科外来の主治医
  • □ 成人側のかかりつけ医療機関、予約状況、主治医
  • □ 小児科と成人科の併診期間と役割分担
  • □ 紹介状、看護サマリー、画像、検査結果
  • □ 検査入院時のルーティン(検査の順番など)、処置が難しい場合の支援者
  • □ 急変時や臓器障害発生時の相談先

4 制度と地域支援

  • □ 取得している手帳:身体障害者手帳、療育手帳、その他
  • □ 障害支援区分の認定状況
  • □ 相談支援専門員の有無
  • □ サービス利用状況:通所、短期入所、ヘルパー、入浴サービス、その他
  • □ 小児慢性特定疾病、指定難病など医療費助成の申請状況
  • □ 日中活動、就労、生活場所
  • □ 親の高齢化や介護困難時の支援体制

チェックリストは、すべてを一度に確定するためのものではありません。未定の項目を可視化し、誰が、いつまでに確認するかを多職種で共有するために使用します。

まとめ

移行医療は、小児科から成人科へ患者さんを移して終わるものではありません。本人を中心に、医療、生活、意思決定を切れ目なくつなぎ、実際の診療で見つかった課題を次の仕組みに反映していく取り組みです。

身体的な自立が難しくても、本人の自律は支えられます。また、完全移行にこだわらず、小児科との連携を残しながら成人側の経験を蓄積する方法もあります。まず一回の成人科受診や検査入院から接点を作ることが、現実的な第一歩になります。

参考資料

  1. 厚生労働省 小児慢性特定疾病対策の概要 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000078973.html
  2. 小児慢性特定疾病情報センター 医療費助成の概要 https://www.shouman.jp/assist/outline
  3. 小児慢性特定疾病情報センター 自立支援事業 https://www.shouman.jp/support/patient/
  4. 厚生労働省 指定難病 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000084783.html
  5. 難病情報センター 指定難病患者への医療費助成制度のご案内 https://www.nanbyou.or.jp/entry/5460
  6. 﨑山快夫.神経疾患における小児-成人移行医療.BRAIN and NERVE 2022;74:753-757.
  7. 掛江直子.小児慢性特定疾病児童等の成人移行と制度上の課題.BRAIN and NERVE 2022;74:763-770.

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