経頭蓋磁気刺激の基本

電気生理

MEP記録・運動閾値・CMCTを実践的に理解する

この記事のゴール  FDIへの電極装着、安全確認、RMT・AMTの決め方、CMCT測定の流れを一続きで理解する。

はじめに

経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation:TMS)は、頭皮上のコイルに瞬間的な電流を流して変動磁場を生じさせ、脳内に誘導電流を発生させる方法です。運動野を刺激すると末梢筋から運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)を記録でき、皮質脊髄路の機能評価に利用できます。

この記事では、単発刺激を用いた臨床神経生理検査を中心に、ハンズオン実技マニュアルの要点を若手医師向けに整理します。反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)の治療プロトコルとは目的・安全管理が異なる点に注意してください。

1.MEP記録のための電極配置

第一背側骨間筋(FDI)の電極配置

上肢のMEP記録では第一背側骨間筋(first dorsal interosseous:FDI)がよく用いられます。示指を外転させ、収縮時に最も硬く触れる筋腹を確認してから関電極を貼ります。

図1 FDIの表面電極配置(もちもち神経内科オリジナル)

  • 関電極:第一背側骨間筋の筋腹。
  • 不関電極:示指のMP関節付近。
  • アース:記録電極より近位の手首。
  • 皮脂や汚れを酒精綿で除去し、乾燥後に電極を貼付する。
  • コードを刺激コイルへ近づけず、大きなループを作らない。
確認ポイント  モニター上で安静時に筋活動がないこと、軽い示指外転でFDIの随意筋活動が得られることを確認します。

前脛骨筋(TA)の電極配置

図4 前脛骨筋(TA)の表面電極配置(もちもち神経内科オリジナル)

  • 関電極:足関節を背屈させ、内反はせずにTAを収縮させる。収縮時に最も硬く触れる場所
  • 不関電極:関電極から約3 cm遠位の脛骨上
  • アース:関電極より近位

2.刺激前の安全確認

TMSは非侵襲的ですが、強い磁場と誘導電流を用います。特に頭部周辺の磁性体や電子機器、発作リスク、聴覚保護を系統的に確認します。安全性の判断は、単発刺激か反復刺激か、インプラントの種類・位置、刺激条件によって異なります。

チェックリスト

  • 頭部・頸部を中心とした体内金属、人工内耳、ペースメーカーなどの有無と位置を確認する。
  • てんかんなどの脳疾患、内服薬を確認する。
  • 刺激部位のヘアピンやアクセサリーを外し、磁気カード、時計、携帯電話などをコイルから離す。
  • 手足が勝手に動くこと、音がうるさいことを事前に説明し、必要に応じて耳栓を使用する。
  • 心臓を刺激しない(コイルを前胸部へ当てない)。刺激装置本体や他の医療機器の上へコイルを置かない。
  • 被検者の苦痛や気分不良を確認し、必要最小限の刺激強度で行う。
重要  「金属がある=一律に不可」ではありません。インプラントの材質・位置・機器依存性を確認し、最新ガイドライン、機器添付文書、施設基準に従って個別に判断します。

3.運動閾値を決める

運動閾値は、個々の皮質運動野の興奮性を反映し、刺激強度を標準化する基準になります。まず最小の刺激強度で安定したMEPを導出できる位置(hot spot/motor point)を探し、その位置を保って閾値を測定します。

図2 RMTとAMTの違い(もちもち神経内科オリジナル)

安静時運動閾値(RMT)

定義  標的筋が安静の状態で、50 μV以上のMEPが10回中5回以上得られる最小刺激強度。
  1. 筋活動がないことを筋電図モニターで確認する。
  2. 50%程度の刺激強度から開始し、MEPを確認しながら徐々に下げる。
  3. まず2%刻みで調整し、最終決定は1%刻みで行う。
  4. 10回程度刺激し、基準を満たす最低強度をRMTとする。

随意収縮時運動閾値(AMT)

定義  最大随意収縮の10〜15%程度で、200 μV以上のMEPが10回中5回以上得られる最小刺激強度。

AMTでは示指を軽く外転させてFDIを最大随意収縮の10〜15%程度で収縮させます。背景筋活動にMEPが埋もれやすいため波形を重ね書きし、同じ潜時に再現性よく出現する波形かを確認します。MEP後には背景筋活動が一時的に消失するsilent periodがみられ、その後に随意筋活動が再開します。

  • 刺激直前から一定の軽い収縮を保ってもらう。
  • 最初に確認できたMEP潜時へカーソルを置き、重ね書きで再現性を見る。
  • 背景筋活動そのものをMEPと誤認しない。
記録条件の例  low-cut 20 Hz、high-cut 3 kHz。low-cutを上げると振幅が小さく見える場合があるため、施設内で条件を統一します。

4.CMCTを測定する

中枢運動伝導時間(central motor conduction time:CMCT)は、運動皮質刺激で得たMEP潜時から、神経根刺激で得た末梢側の伝導時間を差し引いて求めます。上肢ではC7付近を刺激してFDIから、下肢ではL5付近を刺激して前脛骨筋(tibialis anterior:TA)から記録します。いずれも CMCT = CTX潜時 − Root潜時 です。

図3 上肢(C7–FDI)・下肢(L5–TA)のCMCT測定(もちもち神経内科オリジナル)

計算式  CMCT = CTX潜時 − Root潜時

皮質刺激

  • 上肢ではFDIのhot spot、下肢ではCzの1〜2 cm外側かつ1〜2 cm後方を目安に足の運動野を探す。円形コイルを用い、MEPを最も安定して導出できる位置と向きを決める。円形コイルでは、下肢は閾値が高くなりやすく、コーンコイルが必要となることも。
  • 軽い随意収縮下で刺激し、強度を徐々に上げて最大上刺激を目指す。刺激が弱いとMEPが小さく、潜時が遅く見えることがある。
  • 5〜10回程度を重ね書きし、再現する最短潜時を判断する。

神経根刺激(C7・L5)

  • 神経根刺激は末梢神経刺激として安静下で記録する。上肢(FDI)ではC7より少し下に円形コイルの上縁が当たる位置を目安とする。
  • 下肢(TA)ではL5に円形コイルの上縁が当たる位置を目安とする。MEPが得られない場合は、正中から記録筋側へ少し寄せて確認する。
  • 体とコイルを密着させるため、被検者の体幹前面も支える。コイルの向きは体内の電流が椎体へ集中する角度とし、左右とA-up/B-upを入れ替えて最適な向きを確認する。
  • 右側筋ではコイル内時計回り・体内反時計回り(B-up)、左側筋ではコイル内反時計回り・体内時計回り(A-up)から開始し、裏返した向きも比較する。
  • (具体例)右手を刺激したい時は、電流を左向きに流す
  • 刺激強度は装置出力の頭部60%、上肢60〜70%、下肢70%程度が一つの目安だが、個人差が大きいため低強度から徐々に上げる。
  • 強度を徐々に上げ、最大上刺激を確認し、5〜10回程度を重ね書きして潜時を決める。

まとめ

TMS検査は、コイル位置、刺激強度、筋収縮、波形判定の小さな違いで結果が変わります。定義を覚えるだけでなく、「筋電図モニターを見ながら再現性を確かめる」ことが測定の基本です。

参考文献

  • 経頭蓋磁気刺激の安全使用のためのハンズオンセミナー 実技マニュアル, 2026年5月28日.

免責事項

本記事は医療従事者向けの教育資料であり、個別患者への適応判断や機器操作を代替するものではありません。実際の施行は、所属施設の手順書、機器添付文書、最新の安全ガイドラインおよび適切な監督のもとで行ってください。

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